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今回の政策変更は何が一番変化したからか、と問われて、「実体経済がうんと悪くなってきていることが、第一に申し上げなければならないことだと思う」と続けている。
先に見た「金融経済月報」の評価とは矛盾するが、意に介さない風であった。
この後、前者のN先行パターンは、九九年一月のゼロ金利政策採用、二○○一年三月の量的緩和策採用などの政策転換に際して如何なく発揮される一方、同じく量的緩和策への転換や、二○○二年九月のN銀による銀行保有株買い取りなどに際しては、後者の一八○度転換パターンも展開されていく。
Nは次のように回想する。
「同日(九月九日)の会議の雰囲気は、当初は一部の委員に一層の金融緩和についての戸惑いのようなものがうかがわれたと記憶しているが、最終的には(かねてから利下げ主張の自分を除く)ほとんどのボードメンバーが前回の結論とは逆に、利下げに賛成した」一八○度転換パターンはN銀の政策決定の信頼性維持にとって望ましくなかった。
新N銀法の説明責任という点でみても、その時々で、政策効果を幾分減殺した可能性も否めない。
○・二五%への利下げを決めた九月九日の採決は、八対一・一八○度の転換に納得できないSが「ノー」の一票を投じた。
代わりにSは、現状維持の独自提案を出すが、一対八で否決される。
Mは緩和に賛成しながらも、自説の準備率引き下げを求める案を提示、これも一対八で否決された。
「これ以上の引き下げは家計を一層苦しめる」と主張するSは、この時の政策変更の「違和感」もあり、以後、タカ派の立場を鮮明にする。
ただ、「○・二五%」にノリ代が縮まった中では、Sの立場もミクロ圏内でのタカ派でしかなかった。
Uの評価はSとは違った。
「少なくとも景気のデータを見る限りは、緩和をしてもおかしくない状況だったが、それだけではなく、我々は金融システム問題を意識していた。
C銀問題のほか、海外ではジャパンプレミアム(邦銀が海外で外貨調達をする際、信用リスクを上積みした高いレートを求められること)が起き、国内でも一部の銀行の資金繰りがおかしくなっていた。
クレジットクランチの最初の兆候みたいなものがある程度出ていた」実は、H体制の五年間を特徴付ける三つ目のパターンが、計らずもこの時に始動していた。
景気対策と金融システム対策が混在するパターンだ。
N銀の政策目標は後で見るように、物価安定策と信用秩序策に大別される。
従って、金融システム対策に主眼を置いた金融政策があってもおかしくはない。
九月九日の緩和では、コールレートの引き下げのほかに「なお書き」が加えられた。
これはC銀問題を巡り、与野党の駆け引きが続く国会攻防を脱みつっ、Uが指摘するクレジット・クランチヘの対応を意識したものだった。
金融システム危機への不測の事態に備えて、N銀が潤沢な流動性供給に応じる構えを示したと言える。
その意味で、この時の緩和策は、景気対策と金融システム対策が混在した最初の策だった。
米国の圧力が、TCM対策を意識した国際金融市場対策だったとして、日本でも重点は、低迷が続く景気より、まず信用秩序対策が焦点だったとみることもできる。
緩和に反対したSも、「実体経済のデータそのものは大きく変わっていなかったが、金融システム問題が深刻化し、個別金融機関が不良債権問題でにっちもさっちも行かなくなっていたことは、月ごとに聞いていた。
だから、九月九日に何か政策を取るとすれば、そちらの方が(利下げの理由として)頭にあったし、『なお書き』が出てくるのは当然と思った」そうならわかるのに、問題は政策変更の理由の第一がデフレ防止と景気対策で、金融システム対策は補完的な位置づけだった点だ。
ところが実際は、米国の外圧も、国内の事情も、金融システム安定だった。
混在パターンについての説明のあいまいさは、次のゼロ金利決定でも起きる。
総裁のHの説明も意味不明だった。
政策変更後の会見で、「今回の政策変更の最優先順位は、銀行の資金繰りをよくすることにあると考えていいのか」と問われ、「金融市場に資金を潤沢に供給することである」と答えている。
「何のために資金を潤沢にするのか」を明らかにしなければならないのに、それまで金融政策変更の焦点は、超短期の無担保コールレート翌日物に注がれてきた。
それをN銀は、最初の政策変更のころからターム物(取組日や決済日を自由に設定する期日取引。
一六日物から一カ月一年物)レートの金利上昇を抑える操作も実施し始めていた。
国債格下げの動きや、国内の金融システム不安の継続などで、金融機関の期末の資金需要が逼迫する恐れが出ていたためだった。
ここでN銀は一つの〃発見〃をする。
当時、N銀は、ジャパンプレミアムによって資金調達問題に直面した金融機関向けに流動性を供給するため、マネタリーベースの伸び率を高水準に保っていた。
その一方で、ターム物の資金にもCP、手形、レポオペなどを通じて厚めに資金供給をし続けた。
すると、「翌日物のコールレートが目標水準よりさらに低下する可能性が出てきた」ターム物金利の抑制により、足元の超短期のコールレートに一段の下げ余地が生まれたのだ。
そこでターム物の資金供給とともに、翌日物などの超短期資金については、手形売出オペなどで回収して目標水準にとどめる操作を実施した。
ターム物と翌日物とで逆方向の操作をする一種のツイスト・オペレー敢えて禅問答風に混ぜっ返した格好だった。
このように、政策変更の説明をあいまいにすることは、それ自体、N銀法が求める透明な説明責任の精神に反する。
Hは、その精神から時としてずれても気づかない風でもあった。
景気対策と金融システム対策が混在するパターンは、一○○三年一月にHからバトンタッチを受けたF体制になっても散見される。
そのことに対する説明の不十分さも相変わらずだ。
ひょっとすると、これがN銀の伝統的体質なのではと思えるほどだ。
N銀の政策目的はすでに見たように二つに分かれる。
第一が、物価の安定を通じて経済発展に資することで、第二が金融機関の資金決済の円滑化を通じて信用秩序(金融システム)を維持する点だ。
N銀は政策決定と運用の両面で、この二つの政策目的を分けている。
第一の物価・景気を意識した金融政策は、紛れもなく政策委が政策変更の是非を決める。
もう一方のションの実践だった。
本来、ツイスト・オペ(あるいはオペレーション・ツイスト)はCが長期国債を買いオペし、短期金融資産を売りオペするという長短逆方向の市場操作の組み合わせをいう。
長期買いオペで中長期金利を抑えて景気対策としての国内投資を喚起し、短期売りオペで短期金利を上昇させることで短期資本の海外流出を防ぎ国際収支の赤字を抑える両面の効果を狙うわけだ。
一九六○年代初めに米FRBが公開市場操作として実施した。
ただ、米国も狙い通りの効果を上げるには至らなかった。
基本的に長短金利は、長期的にみると同一方向に動く傾向にあるので、ツイスト操作には限りがあるためだった。
九八年時点で、日本で操作対象となった翌日物とターム物は、どちらも概念的には短期資産に属し、かつ翌日物がほぼゼロに近い水準に張り付き、それ以上の下げ余地が乏しいという特殊な状況での反応だった。
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